マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)の研究にみられる4つの効果
マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)のプログラムを受講するとどんな効果が得られるのであろうか?マインドフル・セルフ・コンパッションとは、苦しんでいる親しい友人に接する時と同じ優しさ、関心、サポートを自分自身に向けるためのセルフケアのスキルである。
MSCのプログラムを受講することで、このセルフ・コンパッションのスキルを高めることができる。MSCでは、マインドフルネスとセルフ・コンパッションを組み合わせることで、困難な経験や感情に直面しても、自分自身とよりポジティブで受容的な関係を築くことができるようになる。
MSCの効果を支持する研究は増え続けているが、主要なものに以下の4つが挙げられる。
ウェルビーイングの向上
多くの研究により、MSCプログラムへの参加は、ウェル・ビーイングを高めることが示されている。具体的には、不安やうつ病、ストレス症状の軽減につながることが明らかにされている。
ウェルビーイングとは、人々が肉体的、精神的、社会的に健康である状態を表す言葉である。人々が幸せで充実した生活を送るために必要な、身体的な健康、精神的な健康、社会的なつながり、個人の成長、自己実現など、様々な側面を包括的に指すものだ。
例えば、Journal of Consulting and Clinical Psychology誌に掲載された研究では、MSC講座の受講によって、うつ病、不安、ストレスの症状が著しく軽減されたことが明らかになった(Neff, K. D., & Germer, C. K. , 2013)。
同じく、若者に対するセルフ・コンパッションの研究においても、心理的苦痛に対しても効果があることがメタ分析で示された(March, Chan, & MacBeth, 2018)。
MSCプログラムがセルフ・コンパッションを向上させ、ストレス対処スキルを向上させる効果があることを示した研究もある(Barnard, L. K., & Curry, J. F. ,2011)。
これらの研究は、MSCプログラムがうつ病や不安、ストレスなどの精神的な問題に苦しむ人々に効果があることを示している。MSCプログラムは、セルフ・コンパッションやストレス対処スキルを向上させるための有用な介入として、ウェルビーイングを高める可能性がある。
レジリエンスの向上
MSCは、「レジリエンス(困難な経験に対処し、そこから立ち直る能力)」を高めることもわかっている。MSCプログラムが医学生のレジリエンスにどのように関連するかを調べた研究によると、MSCプログラムに参加した医学生は、レジリエンスが向上し、ストレスを受け入れられる能力が高くなることが示された(Greven, C., Bruggeman, J., Stassen, L., & Bögels, S. M., 2020)
MSCプログラムがうつ病と不安症状に対するレジリエンスを向上させるかどうかを調べた研究では、MSCプログラムに参加したグループは、うつ病と不安症状の軽減、自己受容感の向上、そして生きがいの感覚の向上が見られることが示された(Van Dam, N. T., Sheppard, S. C., Forsyth, J. P., & Earleywine, M. ,2011)
これらの研究から、MSCプログラムはレジリエンスを向上させる可能性がある。
幸福感の向上
MSCは、全体的な幸福感や生活満足度を向上させることが研究で示されている。例えば、Mindfulness誌に掲載された研究では、MSCプログラムを修了した参加者は、対照群の参加者に比べて、より高いレベルの幸福感とセルフ・コンパッションを報告したことが明らかにされている(Schnell, T., & Krampe, H. ,2020)。
他の研究結果でも、セルフ・コンパッションが幸福感に正の影響を与えることが示された。また、セルフコンパッションは、自尊心とは異なる独自の要素を持っており、セルフコンパッションの向上が幸福感を促進することが示唆されている(Neff, K. D., & Vonk, R. ,2009)。
これらの研究から、MSCプログラムは、幸福感を向上させることが示唆される。
感情のコントロールの強化
MSCは、個人の感情をより効果的にコントロールするのにも役立つ。セルフコンパッションが自己に対する不快な出来事への反応にどのように関連するかを調べた研究において、セルフコンパッションが自己批判的な反応を軽減し、セルフコンパッションが感情調整のスキルを向上させることが示唆された(Leary, M. R., Tate, E. B., Adams, C. E., Batts Allen, A., & Hancock, J. ,2007)。
もう一つの研究では、セルフコンパッションがダイエット中の感情調整にどのように関連するかを調べた。研究結果は、セルフコンパッションが、体重減少や健康的な行動変容を促進することが示された。また、セルフコンパッションによってストレスや不安を緩和し、感情調整のスキルが向上することが示唆された。
これらの研究から、MSCプログラムは感情コントロールを強化する可能性が示された。
まとめと注意
MSCプログラムの効果について4つの視点から解説した。MSCプログラムを受講すると、このような傾向が手に入るとしたら心が弾むのではないだろうか?皆さんが手に入れたいと思う要素はあっただろうか?これらの知見は科学的研究からの示されたものだが、実際のプログラム受講者が感じる効果には、個人差があり、参加したからといって皆が同様の効果を実感できるものではない。
効果を得ようとすること自体が、マインドフルネスの文脈でいうなら、少し違うということもある。マインドフルネスでは、「プロセス」そのものを大切にするものだからだ。
結果を得ようと奮闘するのではなく、セルフ・コンパッションを学ぶ冒険、プロセスを楽しんでみてはいかがだろうか。もがいているとすれば、それはセルフ・コンパッションではない。
筆者の体験からは、セルフ・コンパッションを練習することが、時に辛いことがあっても、少しずつでも、実践を続けていると、少しずつ上記の4つの効果の方向に向かっていっている感覚はある。人によって、ペースは違えど、こつこつやっていけば、セルフ・コンパッションの恩恵を受けることができるようになる。
他にも、MSCに関する研究は、拡大傾向にあり、最新の研究データについて読んでみたい場合は以下のサイト(英語)が最新の知見を反映している。
臨床心理士・公認心理師・MSC講師(trained teacher)・MBRP講師(MBRP:アディクションのためのマインドフルネス再発予防)アディクションへの支援とマインドフルネスが専門。趣味:カメラCanon6DmarkII、ガーデニング、SUP、キャンプ・登山&源泉掛け流しの温泉に怒涛の出撃。noteはじめました。https://note.mu/mindful_therapy
参考文献:マインドフル・セルフ。コンパッション プラクティスガイド 星和書店
記事で述べられているMSCプログラムとは、原則8週間のMSCプログラムのことである。
現在、8週のMSCプログラムを教えるには、Center for Mindful Self-Compassion(米国)で開催される講師養成講座に参加し、所定のトレーニングを受けた講師のみが教えられる。日本では、まだ10数名しか存在しない。
概要はこちら
初めて学ぶ人には、このような単発、1時間半の入門講座もあります。