<イベント開催報告>臨床に活かすマインドフルネス&セルフ・コンパッション座談会

2025年1月14日、NPO法人マインドフルネス心理臨床センター(CMAP)は「臨床に活かすマインドフルネス&セルフ・コンパッション座談会」を開催しました。CMAPのNPO法人化を記念した特別企画として開催した本イベントでは、それぞれ国内でMBRP、MCT、MSCの第一人者として活躍する、CMAP代表の小林亜希子氏(MBRP)、理事である伊藤義徳氏(MCT)、大宮宗一郎氏(MSC)の3名が登壇しました。
それぞれの専門的な視点から、マインドフルネスやセルフ・コンパッションが患者支援や支援者自身のケアにどのように役立つのかや、今後臨床で有効活用していく上で押さえておきたい基礎、また気をつけるべき点などについての考察が共有されました。
クローズドな有料イベントのため講演の詳細はお伝えできませんが、簡単にイベントの内容をご紹介します。
スマホ・過食・アルコールへの依存に有効なMBRP――小林亜希子氏
小林氏は、マインドフルネス心理臨床センターのミッションとして、「エビデンスに基づきながら、宗教的な枠組みではなく、誰にとっても実践しやすいセキュラーな形でマインドフルネスを提供すること」が強みであると語りました。特に、MBRP(マインドフルネスを活用した再発予防プログラム)の有効性について触れ、アルコール、スマートフォン、過食などの依存傾向に対して、マインドフルネスがどのように役立つのかを解説しました。
「依存行動は、向き合うべき問題からの逃避という側面がある。多くの人は自分を見つめたくない。しかし、マインドフルネスを通じて“自動操縦状態”に気づき、気持ちやニーズを観察することで、より長期的に幸福につながる行動を選択できるようになる」と述べ、習慣的な依存行動から抜け出すためには、感情や思考に気づくことが重要であることを強調しました。
また、MBRPは単なる回復のためのツールではなく、依存行動の根本にある「本当に必要なもの」を探るプロセスを支援するものだとし、「引き金となる状況を避けるのではなく、その状態にとどまり、落ち着いて対処する方法を学ぶことが大切」と語りました。また、臨床現場などで必要となるトラウマセンシティブなどの人たちへの対応については、講師養成講座でしっかりとお伝えすることなどを話しました。
マインドフルネスが臨床に貢献するために必要なこと――伊藤義徳氏
伊藤氏は、MBCT(マインドフルネス認知療法)のプログラムについて、「思考は事実ではない」がキーワードとなり、さまざまな瞑想や認知療法のワークが巧みに組み合わされたプログラムであると解説しました。MBCTには、うつ病の再発予防を目的としたMBCT-D、一般の人が精神的健康の向上を目指すMBCT-L、がん患者向けのMBCT-CANCERなど、それぞれの対象者に応じたプログラムがあり、MBCTの臨床応用の可能性の高さについて紹介しました。また、トラウマ・サバイバーへの配慮や、特性・状態に応じた指導が不可欠であることに触れ、指導者の継続的な研鑽の重要性を強調しました。
また、近年のマインドフルネスに対する批判についても触れ、「商品化」や「欧米文化に取り込まれた結果、道具化されている」という指摘があることを認めつつ、「マインドフルネスは本来、欲を満たすための道具ではなく、“欲に囚われることの無益さ”を理解するための道具」であり、その自覚を持ちながら目先の利益に囚われず、節度を持ち、謙虚にマインドフルネスと向き合う必要があると述べました。
臨床に活かすセルフ・コンパッション――大宮宗一郎氏
大宮氏は、コンパッションとは「他者の痛みを認識し、この痛みに共感し、その人を助けたいと願う願望を伴う側面と、苦しみを和らげるために何かをするという行動的側面があり、コンパッションとは、見て、感じて、願って、行動することと言える。この思いや温かい感情を自分に向けることがセルフ・コンパッションである」と解説しました。
また、「MSCは他のプログラムとは異なり、心理療法ではなく、一般成人を対象とする心理教育プログラムですが、支援者は、まず自分自身を徹底的に理解することが重要である。困難な感情と向き合い、困難な人間関係を探ることで、内観的な理解が深まり、結果として支援者としての成長につながる。」と述べ、臨床現場でのセルフ・コンパッションの活用について語りました。「自己理解には痛みを伴うことが多い。しかし、その痛みを避けるのではなく、セルフ・コンパッションを通じて向き合うことで、支援者としての自分も深まっていく」とし、自己探究がより良い支援に直結することを強調しました。「自分と向き合い痛みを知る人ほど、他者に対して優しさを持てる」と語り、支援者自身がセルフ・コンパッションを実践することで、クライアントとの関係性にも良い影響を与えることを説明しました。
内観を深め、肝の座った臨床家へ
全体の発表を通し印象的だったのは、3者ともに「支援者自身がマインドフルネスやセルフ・コンパッションを通し自己理解を深めることが、クライエントへの理解を深め良い支援につながること。また、客観的に自己を見つめることで、自分が役に立てないなどとてらわずに向き合う覚悟を持てるようになり臨床における『肝を据えた対応』を可能にする」という考えが共通していた点です。
イベントは、「多くの支援者の方は自己への探求に興味をお持ちだと思います、面白そうだと思った方は、どのプログラムからもでいいのでぜひ自己探究の道へ進んでみてください。」という小林氏の言葉で締めくくられました。
2月には一般向けイベントを開催
今回の座談会は臨床家向けの内容でしたが、次回は「セルフ・コンパッション」や「マインドフルネス」に興味を持つ一般の方に役立つテーマでイベントを開催予定です。2025年2月8日に開催される「働く人が元気!やる気!になるためのマインドフルネス&セルフ・コンパッション」では、忙しい毎日でも取り入れられるマインドフルネスの実践方法、自分をいたわり、やる気を高めるセルフ・コンパッションのコツ、明日から使える具体的なセルフケアスキルなど、専門家の視点からその方法を学び、日々の生活に活かせる術をお伝えします。
イベントではマインドフルネス僧侶として著名な川野先生、グロービス経営大学院教員でグローバルリーダーの育成とコンパッションの普及に取り組んでいる若杉先生、そして当センター代表の小林が登壇します。
詳細・お申し込みはこちらから:
働く人が元気!やる気!になるためのマインドフルネス&セルフ・コンパッション
自己探究の一歩を踏み出し、より健康的で充実した毎日を目指してみませんか?