依存症(アディクション)と動機づけ面接

はじめに

動機づけ面接は依存症治療の改善のために生まれました。その説明のためには少し依存症(アディクション)について説明する必要があります。

まず、クイズです。依存症という病気ができたのはいつ頃でしょうか?

①第一次世界大戦頃

②第二次世界大戦終戦頃

③石油ショック頃

いかがでしょう?正解は③。1970年代のことです。皆さんは生まれていましたか?

ではそれ以前は依存症になる人がいなかったということでしょうか?そうではありません。しかし、依存症の問題は人間にとってどう扱って良いのかわからない難問であり、歴史的には宗教心や道徳心の問題、犯罪などして扱われ、病気として認められたのはほんのこの50年ほどということになります。

1980年代、依存症は病気として扱われることになったものの、依存症者は嘘つき、だらしないなどとスティグマの対象であり、強制的な直面化と呼ばれるような威圧的な方法で問題を認めさせることが治療であると言われていました。

動機づけ面接のはじまり

それに異を唱えたのが動機づけ面接です。動機づけ面接のスタートは1980年頃に遡ります。Miller,W.らはアメリカのアルコール依存症の治療現場でさまざまな研究からこれまでの強制的なやり方が効果がないことを証明し、動機づけ面接を作っていきました。

1980年代末にはプロジェクトマッチという大規模な研究がありました。これは12ステッププログラム、認知行動療法、動機づけ面接の3つのアプローチの効果測定をして比較するという研究でしたが、この3つのアプローチに大きな差異は見られませんでした。しかしその後の研究によって、12ステップ、認知行動療法の中にも動機づけ面接と共通する要素が含まれていたことがわかっています。

動機づけ面接の重要な要素

それではその共通の要素、つまり動機づけ面接の重要な要素とはなんでしょうか?

それは、変化を押し付けるのではなく相手から引き出すこと、相手と協働して面接を進めること、共感的であること、相手を価値ある人として認めることであり、現在の動機づけ面接ではスピリットとしてまとめられています。動機づけ面接はカールロジャースの来談者中心療法から大きな影響を受けています。その土台の上に行動変容についての実証的な研究を積み重ねて作られたコミュニケーションスタイルなのです。

飲酒やギャンブルなどアディクションの行動を変えるためには、その人自身が変わろうとしなければなりません。いくら家族や医療者、援助者が変化を押し付けても表面的、一時的な変化に過ぎません。その人の中から変化への動機が高まることが必要なのです。では、その人の動機が自然と高まるまで、周囲は待っていなければならないのでしょうか?

動機は関係性の問題

そうではありません。なぜなら動機というものは関係性の問題なのです。相手と自分の関係性によって動機は高まったり、低まったりするのです。

私たちが適切な関わりを持つことによって、相手の変化の動機に影響を与えることができます。人としての倫理に基づいて相手が行動を変えることが望ましいと考えられる場合、非常にヒューマニスティックなやり方を通じて相手に働きかけ、動機に影響を与えることは可能なのです。それが動機づけ面接です。

興味深いのは相手を変えてやろうと思って関わることはうまくいかないことです。動機づけ面接は人を変える道具ではないのです。今ではヘルスケアや司法などさまざまな領域で用いられている動機づけ面接ですが、その根本原理はアディクション、つまりやめたいとやらずにはいられない(変えたいけど変えるのは怖い)行動のメカニズムを理解し、それに共感を持って、人として対応することにあるのです。

では動機づけ面接は具体的にどのような手法を使うのでしょう?それについてはまた改めてお伝えしたいと思います。今日はここまで。

参考文献:

「依存症」信田さよ子 文春文庫

「動機づけ面接第3版 上下」ウイリアム・R・ミラー 星和書店     

 動機づけ面接とは―アディクション領域における歴史と意義を中心にー高橋郁絵「実践アディクションアプローチ」信田さよ子編 金剛出版 

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