発達障害とアディクション・依存症(嗜癖)の関係とは?


はじめに


 発達障害とは、生まれつきの脳機能の発達の偏りによる特性です。最近では、子どもの
頃には発達障害の存在に気が付かれず、大人になってから診断を受ける「大人の発達障
害」の方も増えています。今日は、そんな発達障害と依存症の関係について考えていきた
いと思います。


ASDとADHD


発達障害にはさまざまな疾患が含まれますが、主要なものとして、自閉スペクトラム症
(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)の2つがあります。ASD は成人の1~2%程度
ADHD は3~5%程度
に認められるとされており、決して稀な特性ではありません。それ
ぞれの大まかな特徴は以下となります。


ASD:他人とのコミュニケーションや社会的関係の形成の困難、興味や関心が狭く特定の
ものへのこだわりといった行動特性を持つ。


ADHD:集中力がない・集中が続かない(不注意)、じっとしていられない(多動性)、
思いつくとすぐに行動してしまう(衝動性)といった行動特性を持つ。


発達障害と依存症


 もちろん、発達障害特性を有する方が必ず、依存症になる訳ではありませんが、さまざ
まな依存症のベースに発達障害があることが分かってきています。


 特に、ADHD には依存症が合併しやすいことが指摘されています。海外で行われた調査
では物質使用障害患者におけるADHD の併存率は約20~30%、医療機関に受診したギャ
ンブル障害患者のうち約10%がADHD 特性を有していたなどの報告がなされています。


 また、ADHD だけでなく、ASD も依存症のリスクファクターであることが指摘されてい
ます。日本の大学生を対象に筆者らが行った研究では、ADHD とASD の両方の特性を有
していた場合に、よりネット依存が生じやすい可能性が明らかになりました。


なぜ、発達障害に依存症が併存しやすいのか?


 発達障害特性を有する方たちの多くが、他人との関係づくりやコミュニケーションなど
の苦手さや、彼らが持つ特性を周囲の人間に理解してもらえないという経験などから、
「生きづらさ」を感じています。そうした、日々の生活のなかで感じている「生きづら
さ」への自己治療(例えば、お酒を飲んでるときの方がコミュニケーションがうまくいく
気がする、ギャンブルやネットをしている時だけ日々の辛い気持ちを忘れられるなど)と
して依存行動を行っていると考えられます。

発達障害が併存する依存症からの回復


 発達障害特性を有する方の依存症からの回復においては「自己理解」の深めることが大
切だと考えられます。「自身のアディクションの背景にどのような生きづらさがあったの
か」、「依存行動が自分に何をもたらしてくれていたのか」といった依存行動の背景にあ
る生きづらさにつながっている自己の特性への理解を深めていくことが重要です。


 そのための具体的な方法の1つとしてマインドフルネスがあげられます。マインドフル
ネスは以前のコラムでも紹介したMBRP(アディクションに対するマインドフルネスプロ
グラム)だけでなく、ADHD に対する有効性も確認されています。そのため、依存症から
の回復とともに、自己の特性への理解や気づきを深め、自らの発達障害特性との付き合い
方を知る機会にもなるという点で、マインドフルネスは発達障害特性(特に、ADHD)を
持つ方にとっても有効なプログラムだといえます。


参考文献

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リディア・ジラウスカ 大野 裕・中野有美(監訳)(2021).大人のADHD のための
マインドフルネス 金剛出版