論文発表:オンライン形式においてもMSC(マインドフル・セルフ・コンパッション)の効果を確認、半年後も効果は持続

当センターの講座をもとにした研究成果が発表されました

このたび、当センターで開催したオンラインの「マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)」講座を対象にした研究が、日本マインドフルネス学会の学会誌『マインドフルネス研究(第9巻第1号)』に掲載されました。

本研究では、日本人を対象としたオンラインMSCプログラムの心理的効果を検証し、プログラム前後および6か月後の変化を追跡しました。これまで主に対面形式でのエビデンスが蓄積されてきたMSCですが、オンラインでの実施効果を示す研究として、日本国内では初の報告となります。

研究の背景と目的

セルフ・コンパッション(self-compassion)は、自分のつらさに優しさを向け、困難な状況の中でも自分を責めすぎずに対処できる心のあり方です。ストレスや落ち込みに対するレジリエンスを高める手法として、欧米では広く普及しており、特に8週間のMSCプログラムは心理的健康を支える有効な方法として注目されています。

本研究の目的は、日本人を対象にオンライン形式でMSCを実施した際、プログラム終了直後だけでなく半年後までその効果が持続するかどうかを検証することでした。

実施方法と参加者

参加者は13名(平均年齢49.3歳)。8週間にわたって週1回、オンラインでMSC講座を受講しました。内容はマインドフルネスやセルフ・コンパッションの実践、グループでの分かち合いなどから構成されています。

評価には以下の3つの尺度を使用しました:

• セルフ・コンパッション尺度(SCS)日本語版

• セルフ・コンパッション反応尺度(SCRS)日本語版

• マインドフル注意認知尺度(MAAS)日本語版

それぞれの尺度について、参加前(T1)、プログラム終了直後(T2)、6か月後(T3)の3時点で回答を得ました。

主な結果

1. プログラム直後の効果(T1 → T2)

全ての尺度において、統計的に有意なスコアの向上が確認されました。

つまり、オンラインMSCプログラムは短期間でも、セルフ・コンパッションやマインドフルネスの向上に有効であることが示されました。

2. 効果の持続(T1 → T3)

プログラム終了から6か月後にも、T2で得られた改善が維持されていました。これは、MSCの心理的効果が一時的なものではなく、時間をかけて根づいていく可能性を示唆する重要な結果です。

考察と意義

これまでMSCは主に対面形式で研究されてきましたが、本研究では日本人を対象としたオンライン形式でも十分な効果が得られることが初めて明らかになりました。特に、半年後のフォローアップにおいて効果が継続していた点は、従来の心理教育プログラムと比較しても非常に意義のある結果といえます。

一方で、本研究にはいくつかの制限もあります。参加者数が少ないこと、対照群を設けていないこと、評価が自己記述式であることなどから、結果の一般化には慎重さが求められます。今後は、より大規模な調査や無作為化比較試験の実施が望まれます。

まとめ

今回の研究成果は、オンラインで提供されるMSCプログラムが、日本人にも効果的に機能することを初めて示したものです。

パンデミック以降、心理支援の多くがオンラインに移行する中で、セルフ・コンパッションを育てるための学びが自宅からも可能であることは、大きな意味を持ちます。

今後も、誰もがアクセス可能な形で、自分をいたわる力を育てられるMSCプログラムの開発と提供を続けていきます。

研究論文の詳細はこちらからご覧いただけます:

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjm/9/1/9_91_2/_pdf/-char/ja