書評 by 伊藤義徳先生:「やめられない!を手放すマインドフルネス・ノート」

「依存症の方に勇気を与える一冊」となるべき一冊

人間環境大学 総合心理学部 教授 伊藤義徳

 本書を手に取られる方は,まず柔らかい色彩と文字の装丁から,初心者向けの一般書というイメージを持つかも知れません。読み始めても,文章は平易で軟らかく,でも時にパワフルで,勇気づけられる一冊となっています。しかし,マインドフルネスの研究と実践を20年継続している私の目から見ると,むしろ「本格的」な専門書と呼びたくなります。

 それは,こうした柔らかい文章が,正しく,最新の根拠に基づいて記述されているからです。この20年の間に,マインドフルネスについての研究はめざましい進歩を遂げています。心理学だけでなく,医学,脳科学,人間工学など,多様な領域において研究が積み重ねられ,マインドフルネス瞑想は,怪しい儀式から科学に基づく支援法へと変貌を遂げました。

 デフォルト・モード・ネットワークや自由エネルギー法則に基づくマインドフルネスの説明は,まさに最先端の知見といえますが,それが分かりやすく紹介されています。そういう説明の文章の後に小さな〈〉つきで数字がふってあります。この数字は,巻末にある引用文献のリストに対応していますが,このリストに並ぶ文献の年号を見てもらうと,この10年以内に発刊された文献が多数引用されていることが分かります。著者自身が,マインドフルネスの最新の研究にあたって本書を構成している証拠です。ちゃんと勉強している人が書いている本なので,信用できるな,と感じます。

 本書は,依存症に悩む方や,その傾向がある方のために書かれた本です。マインドフルネスが依存症に有効であることは研究レベルでは以前から明らかでしたが,日本語で読める依存症者のためのマインドフルネス本は本当に少なく,おカタいマニュアルの翻訳本が数冊ある程度でした。

日本人による初の「依存症に対するマインドフルネス」についての本

 日本人の執筆による依存症に対するマインドフルネス本は,恐らく本邦初だと思います。そしてそれが,自身の依存症経験とマインドフルネス経験に基づいて書かれているということが,その価値を際立たせています。依存症の苦しみや,そこから離れ,付き合っていくための勘所は,経験した人にしか分からないと思います。マインドフルネスの勘所が,経験した人にしか分からないことは,私も経験者なのでよく分かります。両方の経験がある方で,先に述べたようにちゃんと勉強もして本が書ける人は,世界中探してもそんなにいないと思います。そういう方が生み出した本だからこそ,拝見していて説得力があります。

「使える」「役に立つ」ノート・ブック

 根拠に基づいた記述はしっかりありつつも,基本的に本書は,実践し,書き込みながら読み進める「使える」ノート・ブックです。特に後半は,マインドフルネス再発予防法(MBRP)やマインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)等,その効果が確認されているマインドフルネスプログラムで使用されるエクササイズが,多数紹介されています。本書の著者は,これらの指導者資格もしっかり取得されています。なので,技法の紹介の仕方も,またQ&Aも本当に的確で,ちゃんと本書を読んで実践すれば,正しい依存症との付き合い方が身につけられるなと強く感じます。

 本書は,依存症に関わる多くの方の「役に立つ」ことは間違いありません。今後,「依存症の方に勇気を与える一冊」として広く流布する一冊になるのではないかと期待しています。

書籍:

小林亜希子・小林桜児著 『やめられない!を手放すマインドフルネス・ノート』 日本評論社