感情は追い出さなくていい―不安やイライラと付き合うマインドフルネス―
「不安にならないようにしたい」「イライラしない自分になりたい」
私たちは日常の中で、こうした言葉をよく使ったり、耳にしませんか。
まるで不安やイライラといった感情が、なくすべきもの・邪魔なものであるかのように。
けれど、心理学の視点から見ると、感情は決して「間違い」でも「失敗」でもありません。
それらは、私たちの心が環境や出来事に反応したごく自然なサインです。
感情を抑えようとすると、かえって苦しくなることがある
不安や怒りが湧いてきたとき、「考えないようにしよう」、「早く切り替えなきゃ」と無意識に押し込めようとする人は少なくありません。
しかし、心理学の研究や臨床の現場では、感情を避けたり抑え込もうとするほど、心の緊張が強まり、苦しさが長引くことが知られています。
感情そのものよりも、「こんな感情が出てはいけない」、「早く消さなければならない」という態度が、私たちをさらに追い詰めてしまうのです。
マインドフルネスは「感情を消す方法」ではない
マインドフルネスという言葉を聞くと、「いつも穏やかでいられるようになる」、「ネガティブにならなくなる」そんなイメージを持たれることがあります。けれど、本来のマインドフルネスは感情をなくすための技術ではありません。
それは、不安やイライラが「ある・ない」を問題にするのではなく、それらとどう関わっているかに気づくための練習です。
たとえば、「私は不安だ」と思う代わりに、「今、不安という感情が起きているな」と気づく。ほんの少し表現が変わるだけですが、そこには感情と自分のあいだに、やさしい距離が生まれます。
感情は、空に浮かぶ雲のようなもの
感情は、固定されたものではありません。強くなったり、弱くなったり、形を変えたりしながら、自然に移ろっていきます。マインドフルネスでは、感情を「追い払う対象」ではなく、
空に浮かんでは流れていく雲のようなものとして捉えます。雲が出たからといって、空そのものが壊れたわけではないように、不安やイライラが現れたからといって、あなたがダメになったわけではありません。
日常でできる、小さな実践
感情を追い出さないために、日常でできるシンプルな練習があります。
・今の感情に名前をつけてみる
「焦りがあるな」「疲れがたまっているな」
・体の感覚に注意を向ける
呼吸、肩のこわばり、足の裏の感覚など、じっくり感覚に注意を向ける
・心の中でそっと言ってみる
「こう感じている自分がいるんだな」「今はこれでいい」
これは、感情を肯定しようと無理をすることではありません。
ただ気づいて、そばにいるという態度です。
感情があることは、うまくいっていない証拠ではない
不安やイライラがあると、「まだ足りない」「成長できていない」と感じてしまうことがありるかもしれません。でも、感情があるということは、あなたの心がちゃんと働き、何かを大切にしている証でもあります。
追い出すのではなく、押さえつけるのでもなく、気づいて、関係を結び直す。
それが、マインドフルネスの出発点であり、自分自身にやさしくなる第一歩です。

臨床心理士・公認心理師。保健福祉センター子育て課、小学校の巡回指導員、学生相談室、精神科・心療内科クリニックなどでの勤務を経て、現在は日々、子育てに奮闘しながらマインドフルネスを実践中。