僧侶がMBRP講師養成講座で得た新たな武器―MBRPと仏教に通じる衝動との向き合い方とは

MBRP講師養成講座修了生の井上広法さんは、栃木県宇都宮市を拠点に活動する浄土宗の僧侶です。佛教大学で浄土学を専攻したのち、東京学芸大学で臨床心理学も修められ、仏教と心理学の両方の立場から、現代を生きる人がより幸せに暮らすためのヒントを伝えています。

井上さんはこれまでも、SIY、MBSR、MSCなど複数のマインドフルネスプログラムを学び、寺院での活動に加えてビジネスパーソンを対象とした企業研修にも多く携わられています。そのような中、MBRP講師養成講座で心理・医療・支援職の参加者とともに学んだ経験は、これまでのマインドフルネスプログラムでの体験とは異なるものだったといいます。

講座を通して感じた専門的な学び、仏教との共通点、自身の生活に生じた変化、そして企業研修における今後の活用について、当センター代表の小林がお話を伺いました。

心理・医療職と学ぶ、臨床志向のコミュニティ

ーMBRP講師養成講座を受講して、印象に残った点はどのようなところでしたか?

これまで参加したマインドフルネスプログラムでは、ビジネスパーソンが自身のストレス軽減や生産性向上、スキルアップを目的として受講するケースが多かったのですが、MBRP講師養成講座には心理職や医療職などの方が多く、ケアや臨床の現場で学びを活かしたいという明確な目的を持つ参加者が集まっていました。

自身も心理学を学んだ経験があったため、グループワークでは専門的な背景を共有しながら、一歩踏み込んだ意見交換ができました。単にマインドフルネスの技法を学ぶだけでなく、支援の現場を想定しながら参加者同士で考えを深められたことは、講座の大きな価値ですね。臨床で使いたいという思いを持つ方が多く、学ぶ意欲の高さを感じられる質の高いコミュニティに参加できたことも、とても豊かな経験でした。

仏教の「煩悩」とMBRPが扱う衝動の関係とは

ーー仏教の文脈から見たとき、MBRPにはどのような印象を持ちましたか?仏教では、煩悩とどのように向き合うのでしょうか?

僧侶である自身にとって、MBRPの考え方は仏教と対立するものではありません。仏教とは何かを考えると「苦しみの除去」であり、ストレスリダクションと言い得るかもしれません。その中で苦しみとどのように向き合うかが大きなテーマとなりますが、その中には、欲望や執着、いわゆる「煩悩」との付き合い方も含まれます。煩悩を現代的な言葉に置き換えると、衝動や依存となるのではないかと。自分の欲望とどのように向き合うかというMBRPで扱うテーマは、仏教が扱ってきた煩悩とどう向き合うかというテーマと重なります。

ただし、仏教における煩悩の捉え方は宗派によって異なります。大乗仏教の教えには、煩悩を排除や制限せず抱えたままの自分を受け入れ、阿弥陀仏に委ねることで救いへ向かう浄土系の考え方があります。また、密教系には、煩悩の強いエネルギーそのものを否定せず、その向きを変えて悟りや成長につなげようとする発想もあります。このように、煩悩をただ排除したり抑え込んだりするのではなく、その存在を認めながら関係を変えていく考え方があります。

MBRPでも、「お酒を飲みたい」「この行動をしたい」という気持ち自体を否定するのではなく、少し距離を取り、衝動の変化を観察していきます。衝動を波として観察する「衝動サーフィン」については、大乗仏教に通じる要素を感じました。MBRPは仏教と相反するものではなく、仏教のエッセンスを現代の言葉で再解釈して教えているようにも感じました。

講座中の静坐瞑想では、心の揺らぎが次第に小さくなり、安らぎへと変わっていく感覚も体験し、仏教で目指してきた境地の一端を、MBRPの実践を通じて感じたのが印象的でした。

自身も日常の「自動操縦」に気づくように

ーーMBRPを受講して、ご自身の「やめられない」という行動には、どのような変化がありましたか?

今までSNSのアプリを閉じた直後に、気づかないまま再び開くような、衝動と呼ぶほど強いものではなくても、自分の意思とは関係なく、習慣として繰り返している「自動操縦」と言える状態がありました。受講後スマートフォンを不用意に確認する回数が減ったと感じています。

企業研修での新しい武器が増えた

ーー井上さんは、寺院での活動と並行して、企業で半年ほど継続して行うマインドフルネス研修などにも携わっていますが、MBRPで学んだことを、今後の仕事にどのように活かしていきたいと考えていますか?

企業向けでは半年ほどかけて研修を行い、1日5分から10分程度の静坐瞑想を生活に取り入れ、日常の継続的な習慣にしていくことを重視してきました。しかし、企業研修の参加者全員が、静坐瞑想を日常のルーティンにできるわけではありません。研修に自主的に参加する人もいれば、組織の取り組みとして参加する人もいますし、中には、瞑想自体に抵抗を感じる人もいるでしょう。

そのような中で、新たな選択肢となったのが、MBRPで用いられるSOBER呼吸法です。

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SOBERは、次の5つのプロセスからなる短いマインドフルネス実践

  • S:Stop(止まる)
    自動操縦のまま反応する前に、いったん立ち止まります。
  • O:Observe(観察する)
    身体感覚や感情、思考など、今起きていることを観察します。
  • B:Breath(呼吸)
    注意を呼吸へと向けます。
  • E:Expand(広げる)
    呼吸だけでなく、身体全体や周囲の状況へと気づきを広げます。
  • R:Respond(反応を選ぶ)
    反射的に行動するのではなく、その状況で何が必要かを考えて応答します。

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SOBER呼吸法は、イライラしたとき、飲酒や喫煙への欲求が生じたとき、怒りが湧いたときなど、日常のさまざまな場面で活用できるミニ瞑想です。静坐瞑想の習慣が十分に定着していない人にも、日常の中で取り入れられる実践として紹介しやすい点に、可能性を感じています。SOBER呼吸法を学んだことで、相手に伝えられる実践の選択肢が増えました。

ただし、SOBER呼吸法は短く簡単に見えても、その背景にはマインドフルネスの複数の要素が含まれています。自動操縦を止めること、身体や心の状態を観察すること、呼吸に注意を向けること、気づきを広げること。それぞれを理解するためには、ボディスキャンなどの実践も重要です。企業研修でSOBER呼吸法を一度紹介したところ、やはり表面的な手順だけでなく、その深さを伝えるには適切な準備と時間が必要だと感じました。

限られた研修時間の中で、どのような順序で実践を伝えれば、参加者がSOBER呼吸法を取り入れられるのか。今後、現場で実践しながら検討をしていきたいです。

「依存症とは無関係」と思う人にも学びはある

ーーMBRP講師養成講座の受講を検討している方へ、メッセージをお願いします。

MBRP講師養成講座という名称を見て、「自分には依存行動がないから関係がない」と感じる方もいるでしょう。しかし、気づけばオンラインショップで買い物をしている、コンビニで甘いものを買い込み食べた後に後悔する、無意識にSNSを見て気づけば時間が経っていてやりたいことができなかった、といったプチ依存的な行動などは、日常の中で多くの人に起こり得ます。それらは依存症と診断される行動ではなくても、ストレスや不快感に反応して繰り返している心の癖かもしれません。MBRPを学ぶことで、こうした自分自身の癖が見えやすくなります。

難しく考えすぎず、まずは飛び込んでみてはどうでしょうか。講師養成まで考えていない方も、最初にMBRPのプログラムを受けてみるとよいかもしれません。

最後に(当センターからのコメント)

MBRP講師養成講座で学ぶことは、瞑想の方法を伝えるための知識や技術だけではありません。自分の身体や感情、衝動をどのように観察するのか。自分自身が体験した実践を、相手の背景や現場に合わせてどのように届けるのか。MBRP講師養成講座は、そうした問いを心理・医療職や支援職の仲間とともに検討し、実践を深めていく機会となっています。

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井上広法さんご略歴

浄土宗光琳寺 住職
宇都宮仏教会 理事長
hasunoha 共同代表
寺子屋ブッダ プログラムディレクター/講師
著書:幸せに満たされる練習(永岡書店)他
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MBRP講師養成講座について

井上広法さんも受講されたMBRP講師養成講座では、マインドフルネスの実践を自身で深めながら、心理・医療・支援の現場で安全に伝えるための知識と実践力を学びます。現在9月スタートのMBRP講師養成講座(第3期)の募集を受付中です。

MBRP講師養成講座(第3期)のお申し込みはこちら

https://mbrptt202603.peatix.com/view

MBRP講師養成講座の詳細はこちら

参考リンク:

「マインドフルネスを教えたい!マインドフルネス講師になるには?」→https://mindfultherapy.jp/column/mindfulness-certification-paths

「看護師の方へMBRPをおすすめする3つの理由」→ https://mindfultherapy.jp/column/nurse-mindfulness

心理職・医療職がMBRP(マインドフルネスに基づく再発予防)を学ぶべき5つの理由→https://mindfultherapy.jp/column/mbrp-5reasons

スクールカウンセラー、学生相談担当者の方がMBRP(やめられない!を手放すマインドフルネス)を実践するとよい理由→https://mindfultherapy.jp/column/schoolcounselor-mbrp-mindfulness